
【松本セイジさんインタビュー#3】
ワンズテラスでも大人気キャラクター「ねずみのANDY」。生みの親である、アーティスト松本セイジさんのインタビューをお届けします。
キョトンとしたなんともいえない表情で、見る人を虜にしているキャラクター「ねずみのANDY」。そんな「ねずみのANDY」の生みの親、アーティスト松本セイジさんのアトリエ兼ご自宅を訪ねました。「ねずみのANDY」が生まれたきっかけやイラストを描く時に大切にしていること、昨年移住した長野での暮らしについて、3回に渡ってお届けします。
ついに最終回。3回目は長野での暮らしについてご紹介します。長野に移り住んで約2年、創作活動をしながら田舎暮らしをする松本さん。大阪出身の松本さんが長野を移住先に選んだ理由、日々の暮らしについてお話を伺います。
自然に囲まれた環境で描きたい。 長野移住を決めた理由とは?

―大阪出身で東京在住だった松本さんが、長野へ移住を決めたのはなぜですか?
- 松本セイジさん(以下、松本さん)
ニューヨークから帰国してすぐ、善光寺の参道沿いにあるコーヒースタンド「FORET COFFEE」で個展を行った際長野に訪れて、いろいろと案内してもらったんです。山側も湖の近くもすごく雰囲気が良くて。漠然とこういう場所で絵を描いて暮らせたらどんなにいいだろうって思っていました。
―もともと移住したい気持ちがあったのですか?
- 松本さん
ありました。ニューヨークから戻ったタイミングで、次は自然がある場所で暮らそうというのは家族で話していて。最初は東京から2時間圏内でいろいろな場所を見に行ったんですが、やっぱりここで感じた感動を超える場所に出合えなくて。本当に感動したんですよね。結果的に3時間かかるこの場所に移住することに。

―長野駅からも距離があって人里離れた地域ですが、この家を住まいにしたいと思った決め手はなんでしたか?
- 松本さん
この窓からの景色です。向こうに見える木のあたりまでうちの敷地なんです。今は雪で見えませんが、春〜夏はとてもきれいですよ。緑がいっぱいで、山も見えて。あとは畑で野菜も育てています。ここはいわゆる普通の古い家という感じの空き家だったんですが、柱や躯体だけ残してリノベーションしました。窓が多くて外の景色がどの部屋からも見えるのも気に入っています。


「生きてるな〜」 自然の暮らしで想うこと
―長野に移り住んで生活も変わったと思いますが、どんな変化がありますか?
- 松本さん
かなり変わりましたね。東京では仕事が中心の暮らしでしたが、ここでは草刈りをしたり、雪かきをしたり、畑仕事をしたり。日常生活の中でやることがたくさんあって。畑仕事もあるし。暮らしと仕事の比重がガラリと変わりましたね。以前は休日にキャンプに行ったり、どこかに出かけたりしていましたが、ここでは家で過ごす時間が圧倒的に増えました。
また、植木屋の経験もあるので、植物に関しては関心がある方ですが、東京にいた頃よりも季節の移り変わりをダイレクトに感じられます。「これが、春夏秋冬かあ」と。草刈りをしていても雑草の種類が季節によって違うし、季節に合わせてやることもいろいろとある。「生きてるな〜」って実感しますね。もともと地元の人には当たり前にやっていることでも知らないことだからけで、近所の方々に教えていただいています。

―本当に家がポツポツとしかないエリアですが、地元の方々とのお付き合いもあるのですね。
- 松本さん
地域の住民が集まる集会にも参加しています(笑)。近くに別荘地もあって移住者はそちらを選ぶ方が多いかもしれませんが、ちゃんと村人になりたくてこの場所を選んだんです。集会では、「この土地はもともと開拓地でね」といったような土地の成り立ちを教えてもらうことも。雪かきはどうやってやるとか、冬はお風呂を溜めたままで循環させないと凍ってしまうんだとか、雪国での暮らしの知恵もそこで教えてもらっています。都会には新しい物や情報が溢れていてすごく刺激的ですが、ここではそれとは違う種類の刺激があるんですよね。すごく新鮮でおもしろいです。


―ここではどんな風に暮らしていますか?
- 松本さん
朝は7〜8時くらいに起きて、愛犬の散歩をして、薪ストーブに火をつけるところから始まります。そして、コーヒーを淹れて、外の景色を眺めながらゆっくりして。落ち着いたらアトリエで作業を始めます。その時の仕事量にもよりますが、夜は19時くらいに夕飯を食べて、0時くらいには就寝という感じです。


―ここでの暮らしがイラストへの影響はありますか?
- 松本さん
自然の中で暮らしているので、自然そのものや日常を描きやすくはなっていると思います。東京にいる時も、もちろん日常はありましたが。例えば、寒かったら暖房つけますよね。リモコンを使って暖房のスイッチを入れれば済む時代ですが、うちには薪ストーブだけ。まず薪を持ってきて、ストーブに火をつけて…。リモコン1つでできないことがたくさんあるんです。車に乗るのも、まず積もっている雪を下ろすところから。ひとつひとつの動作にストーリーがあるし意識するようにもなります。大変なんだけど、それも含めて楽しみでもあるし、実際体を動かしてみると楽しい。ここで暮らしてから1日が濃厚になった気がします。暮らしのひとつひとつを噛み締めているような。ゴールよりもその過程が大事だなと感じるようになりました。


過程やストーリーを大切に。 暮らしや作品と向き合いたい
―過程を大事に感じるというのは、例えばどんなことですか?
- 松本さん
キャンバスに絵を描こうと思ったら市販のキャンバスを買ってきて描きますよね。それはそれで全然悪いことではないんですけど、「キャンバスから作ってみたいな」と思うようになったんです。どっちが優れた作品になるとかではなくて、今の僕はその過程の作業を実際に自分でやってみたいなと。時間と手間をかけて、ひとつひとつの見えないストーリーも大事に味わっていきたいと思っています。
―ここでの暮らしがこれからも作品づくりに良い影響を与えてくれそうですね。
- 松本さん
以前は割ともっと生産性を考えていた自分がいて。どうやったら効率がいいかとか。どうやったら作品がいっぱい残せるかとか。もちろんすごく大事だと思うんです。個展をするにあたって大きい作品や点数を多く用意した方が、来場者も満足するし、世界観も作りやすいし。でも、あまりに効率だけを考えすぎると大事な何かを見失ってしまう気がしています。だから、今はもう少しひとつひとつと向き合いたい。これまでずっとシルクスクリーンやアクリル画にこだわってきたけれど、自分で自分を束縛していたんじゃないかなと。ここでの暮らしを通して、自分で勝手に決めていた枠を外して解放された感じです。もっと自由に、やりたいようにやってみようかな。そんな想いもあって、これからは油絵やパステルなどいろいろな手法に挑戦していきたいと思っています。


大阪、東京、ニューヨークと都会での暮らしを経て、自然の中で暮らすことを選んだ松本さん。日常を描く松本さんだからこそ、ここでの暮らしが作品に思いがけないエッセンスをくれそうですね。都会生まれの「ねずみのANDY」も、もしかしたら自然の中に描かれる日が来るかも!?
松本さんのこれからの作品がますます楽しみです。
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松本セイジさん
1986年生まれ、大阪府出身。大阪芸術大学卒業後、デザイナーとしてキャリアをスタートさせる。その後、ニューヨークにて本格的にアーティスト活動を開始。これまでに東京、ニューヨーク、ロサンゼルスなどの都市で個展や アートイベントで作品を発表。NIKE、UNIQLO、The New York Timesなど国内外の様々なアートを手がける。現在は長野県の山麓にアトリエを構えて活動中。https://seijimatsumoto.com/

23.03.07 UPDATE