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22.01.21

みんなの台所

固定概念をくつがえす、メキシコ式タコス

料理が好きで、幼い頃からキッチンに立っては自分で調理をしていたという、ファッションブランド〈CITERA〉のディレクター・永直樹さん。小学3年生の時、テレビ番組でフランス料理の三國清三シェフを見て、その姿がカッコいい!と、料理人になりたいと思ったこともあるという。それ以来、憧れがずっと心の中にあった。

10年ほど前には、ストリーミング動画サービスのスカパー!で放送されていた、アメリカのバーベキュー番組を見て、日本との違いに驚いた。「一晩火を絶やさずに肉を焼いたりして、日本みたいに焼きそばなど焼かないわけです。グリル台も本格的で、同じものはどこで買えるだろうか?と調べたりして、まずは憧れから入っていきました」。永さん宅のバーベキューに参加する友人たちは、本場の雰囲気にみんなびっくりするという。友人が狩猟をやっていて、ジビエをお裾分けしてもらえるようになってからは、エゾジカをジャーキーにしたりなど、常に新しいことにも挑戦している。

今回紹介してくれたタコスにハマったきっかけは、2021年に動画配信サービスのネットフリックスで『タコスのすべて』という番組を見たこと。「それまでタコスの皮は固くて、味つけも濃いイメージだったんですが、すごくシンプルな料理なのだと知りました。ドキュメンタリーで、アメリカやメキシコの地方の暮らしぶりを紹介しているので、バックボーンもおもしろくて。それでメキシコのソウルフードであるタコスに興味を持ち始めました」

シナロア州のタコスを模して、準備するのは肉塊(肩ロース)1kg、チレアンチョ、グアヒーヨという唐辛子を乾燥させたもの、元は入っていないが日本人の味覚に合うようしいたけ、ローリエ、アボカド、トマト、レモンなどの食材。

肉は太めに切り、鉄鍋に敷き詰めて塩をふり、ローリエと一緒に煮る。

煮込んでいる1時間程度のあいだにチレアンチョから中身の種を取り湯で戻す。干ししいたけをおろしで細かく削る。削ったしいたけ、戻したチレアンチョ(戻し汁も)、ニンニク、赤ワインビネガーを入れ、ペースト状にしておく。

あまり出回らないという、旨味を持つ唐辛子。
戻したチレアンチョはハンドミキサーでペースト状に。
日本人の口に合うように干ししいたけをいれてアレンジ。

1時間ほど肉を煮込んだら、前述のペースト状にしたものを鍋に加え、醬油とハチミツ、クミンなどスパイスを加える。そしてさらにじっくりと煮込んだ後、肉をほぐす。その際に、中東のザター(ミックススパイス)も加える。

中東発祥のスパイスミックスを入れより香り豊かに。

「肉を煮込むのに、鉄鍋はすごくいい。蓋が重いのでしっかりと圧がかかり、熱が包み込んでくれるので、ホロホロに仕上がります」。今回使ったのは柳宗理の鉄鍋(深型)。伝統技法でつくられた南部鉄器で、普通の鉄板で作られた調理器具に比べ厚く、熱をたくさん保有してくれる。ふんわりとしたその熱は、ゆっくりと全体に行き渡り焦がすことなく、素材にまんべんなく伝えて料理をより美味しく仕上げてくれる。

柳宗理 南部鉄鍋深型 22cm (鉄器蓋・ハンドル付き)。熱を逃がさずふんわりとした熱を常に均一に調理でき、卓上へも温かいままサーブできる。

サルサはトマトを1cm大の四角形にカットし、刻んだタマネギとパクチーを加えてレモンを絞る。メキシコのトマトは味が濃いので、水煮のトマトを1つ入れると、味にぐっと深みが増す。

先に皮のまま転がすと、柔らかくなって果汁を搾りやすくなる。

ワインビネガー、ニンニク、レモン、エシャロット、タイム、塩、砂糖で漬けてあるサルサデウマイ(青唐辛子)のピクルスを刻んで加える。アボカドをたたき、タマネギとビネガーを加えて、ワカモレも作っておく。

ハラペーニョや付け合わせの玉ねぎのピクルスももちろん自家製

もちろん皮も手作り。コーン由来のマサ粉と薄力粉を混ぜ、自家製のラードを加え、お湯を入れて捏ねる。ラードを加えることで、しっとりとした生地ができあがる。

コーン由来のマサ粉。
自家製のラードはポットの上に乗せて温めて溶かす。

プレッサーで生地を丸く薄く伸ばし、フライパンへ移して弱火のまま両面を軽く焼き上げる。

理想のタイプを現地で見つけ注文したところ、届くのに時間がかかってしまった生地用のタコスプレッサー。

お皿も〈チャリータ〉の展示会で購入したメキシコのもの。皮にたっぷりの具材とソースを載せていただく。しっとりもっちりとした生地に、素材のよさが活きたしっかりとやさしい味わいが広がる。

普段から、ぱっとできるパスタを作ったり、よくカレーも作ったりする。日々忙しなく働く永さんにとって、料理とは「余計なことを考えなくていい、作ることだけに集中できる、ほかにない行為」なのだ。

Photo:太田太朗
Interview / text:松本昇子

永直樹

永直樹(えい・なおき)さん
ファッションブランド〈CITERA(シテラ)〉ディレクター。神奈川県出身。〈visvim〉の創業メンバーのひとりであり、デザインやマーケティングに携わった後、音楽レーベル〈AUDIO ARTS〉を主宰、グラフィックデザイナーとしても活躍するなど、活動は多岐にわたる。
https://citera.jp

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