母親の影響で甘味好きになったというミュージシャンの大塚智之さん。「母親は読書が趣味で、喫茶店へ行くのも好きだったので、小学生くらいのころからよく神保町に連れていかれてたんです。途中で必ずお茶をするんですが、当時はコーヒーが飲めなかったし、本にもそんなに興味がなかったから、唯一喫茶店でメロンソーダだったりケーキだったり、甘いものを食べるのが楽しみでした」

その後は普通に学生時代を過ごし、大学卒業後にバンドマンの道へ。打ち合わせや取材時には喫茶店を利用することが多く、再び喫茶店へよく通うようになった。「僕は大人になってもコーヒーが苦手だったので、メロンソーダか、経費で落ちそうだったら少し贅沢してメロンクリームソーダを頼んだりして（笑）。そもそも炭酸水がすごく好きなんだけれど、おしゃれなカフェではなく昔ながらの喫茶店のメニューにある炭酸飲料って、コーラかメロンソーダかレモンスカッシュくらいなんですよね。果物のなかでもメロンが好きだし、人工的なメロン味も好きなので、いつもメロンソーダを注文していました」

メロンソーダといえば、喫茶店ならではのものだと思っていたので、喫茶店へ行くときに飲めたらラッキーくらいに思っていた大塚さん。最初は自分で作ろうとは思ってもいなかった。ところが数年前に、所属していたバンドのポップアップでイベントを主催することになった。「蔵前にあるホテル兼バーラウンジで開催したのですが、その飲食スペースでメンバーそれぞれでコラボメニューを考案しようということになりました。僕は真っ先にメロンクリームソーダを提案。そこで初めていろいろ調べてシロップなどを買い集め、自宅で理想的なメロンクリームソーダを作るべく研究しました。最初にMEIDI—YAを購入。これが一番美味しいと思っています。ほかにもAMAZONで検索したり、パッケージに惹かれて購入したり。喫茶店へ行って作っているところが見えるようだったら何を使っているかこっそり覗いたりして（笑）」

せっかくファンの方たちに提供するならオリジナルのグラスがいいと、ガラス作家の澤田和香奈さんに制作を依頼。「吹きガラスで作られているんですが、どうしてもとお願いしてステム（脚）をつけてもらいました。縁のフレア部分に素敵な着色もしてもらって、理想的なグラスが出来上がりました」

バンド時代は全国各地をツアーでまわり、地方の喫茶店を巡るのも楽しみのひとつだった。家で作るようになると、いろいろな喫茶店のクリームソーダがどうやって作られているのか、というのが気になり始める。「一番好きなのは、大森にある珈琲亭ルアンのメロンソーダ。メロンソーダって、普通、氷の上に乗っているアイスが飲み物に触れてしまうから泡立ってしまうんですが、ここはクラッシュドアイスで、アイスクリームも沈んでいるんだけど、なぜか泡になっていないんです。店の雰囲気も好きだし、グラスやソーダスプーン形もいいし、味も濃い目で、理想的ですね」

「阿佐ヶ谷のgionもいいですね。蒲田のシビタスというホットケーキが有名な店のメロンソーダも好き。渋谷の珈琲店トップや、名曲・珈琲らんぶる新宿店のグラスもかわいいですし、店によって個性が違うのでおもしろいですよ」

材料も作る行程も少ないとはいえ、アイスや炭酸水を常に常備しておくのは面倒だと大塚さんは笑う。「だから、家で作ろうと思うのは、テンションをあげたいとき。夏でも冬でも季節関係なく飲みたくなったら作ります。アイスを先に食べると泡立って飲み物が溢れてしまうので、最初に少し飲んでから食べる。これは子どものころに母親に教えてもらったメロンクリームソーダを飲むときのコツです」

「今回はシロップの分量を30mlで紹介していますが、自分の好みでいいと思っているんです。僕もこだわりらしいこだわりは特になくて、それが逆にいいと思っているので、人それぞれ好きに楽しんでもらえたらうれしいですね」

Photo：太田太朗
Interview / text:松本昇子