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22.08.31

みんなの台所

シンプルでアナログな
窯焼きピザ

白い制服の胸には「前田屋」と刺繍が入り、頭にはコック帽。けれど足元はビーチサンダルで、半ズボン。ピザ窯で火を起こす姿は、ほとんどイタリアの職人のようだが、本業はミュージックビデオやコマーシャルなどを手掛けるプロデューサーという。生地を伸ばしながら「可愛いでしょ」と呟き、時折ブローワーで窯に空気を送って薪を燃やしている。前田博隆さんは、美味しいピザに出合って、それまでは夜型だったライフスタイルまで変わってしまった。およそ13年前、ミュージックビデオの撮影で訪れた沖縄がきっかけだった。

「自給自足の村みたいなキャンプ場で撮影をしていたんですね。そこにピザ窯があった。そのピザがうますぎて、撮影が終わった後も僕だけ一週間残ったんです、勤めていた会社をサボって(笑)。当時、東京から葉山に引っ越したタイミングだったんですが、ピザ作りは覚えたけれど、窯がない。だから沖縄の人たちを自宅に呼んで一週間寝泊まりしてもらいながらピザ窯を作ったんですよ」

その第一号である住んでいた家の庭、今回撮影でお邪魔したシェアオフィスを含め、今では前田さんが作った窯が、葉山には4つもあるという。その研究熱心さが、新しい出会いを呼び寄せる。友人から紹介された自由が丘のピザ店に通うようになり、その店のレシピを教わって、前田さんのピザは格段にレベルアップ。今では閉店後に「たまに焼かせてもらう」ほど、プロ級の腕前になっている。

生地は伸ばした瞬間にうまいかどうかわかる。上手くいった生地は、「音がいい」と前田さん。温度を一定にして発酵させるため、小分けした後にはワインセラーに生地を入れているという。

「そもそも生地や材料が違うと。それで教えてもらったのが、今回のピザでも使っているイタリアの小麦粉、塩、チーズです。それまでは配合自体を細かく変えたり、自分で実験を繰り返していたんですが、自由が丘の店に教わってからは、安定してきたのかな。
 僕がピザにハマったのは、美味しかったからだけではなくて、アナログだったから。やっていることは、とてもアナログなんです。でも、だからこそ、すごく繊細。レシピでは生イースト0.5gですけど、これが倍の1gになったら、まったくの別物になってしまう。その実験の繰り返しによって、アナログな作業が上手くなっていくのが面白かった。目黒の事務所には、ガス窯があるんです。火加減が安定しているからとても楽なんですね。でも、面白くない(笑)。生地も、窯の火も、気温も湿度もその日によって変わるから、その加減調整が面白いんです」

生地を伸ばしながら話を聞いていると、あぁ、と前田さんが言って、少し破けてしまった。「ほら、少し時間が経っただけでもダメになってしまう。おしゃべりしているとね」と笑いながら、そのピザは具材を包んだカルツォーネになった。プロになるために追求しているわけではない。細かなトライ&エラーを繰り返して、少しずつ“アナログの経験値”を上げていく。それが面白いから続けているだけ。そのピュアな心持ちが、ピザにも表れているように思えてしまう。

◎材料  5枚分

生地
小麦粉(カプート サッコロッソ クオーコ)500g
塩(サーレ・マリーノ グロッソ)10g
生イースト0.5g
水300ml

◎具材

モッツァレラチーズ(カセイフィーチョ ポンティコルボ社のフィオーレ ディ ラッテ)
バジル
トマト瓶詰め
シラス
アンチョビ など

◎作り方

1 生地を20分こねる。
2 一次発酵のため1時間寝かす。
3 一つ160gに小分けして、それぞれをタッパーに入れる。
4 二次発酵のため15時間くらい寝かす。
5 なるべく空気を外に逃すイメージで伸ばす。
6 トマトペーストを塗り、バジル、チーズを乗せ、オリーブオイルを回しかける。
7 石窯で約90秒で焼き上げる。

インタビューの最後に、前田さんから教わった教訓を一つ。
「火力の弱さは、心の弱さ。生地の歪みは、心の歪み」
これぞ、前田さんが13年追いかけて辿り着いた“ピザ道”の極意なり。実は刺繍入りの制服もコック帽も、火の粉が飛んできて普通の服では穴が空いてしまうから着ているという。それと同じように、この教訓も、冗談のようでいて“真理”を突いている(もちろん、多分に茶目っ気が含まれているけれど)。アナログでシンプル。前田さんにとっては、ピザが、ライフスタイルの一つの指標になっている。

シラスのピザは、シラスの塩分を感じつつ塩加減を調整する。チーズは少なめに。ニンニクを薄くスライスして散らす。ギザギザのついたナイフが、ニンニクの香りを引き出す。
焼き上がりのタイミングは、チーズの溶け具合、生地の色づきを見て判断する。

今回使った道具はこちら。

固く粘りのあるアカシアのチョッピングボードは、ピザをカットしても傷になりにくく、他にもステーキをカットしたり、そのまま盛り付け皿として使用したり、和洋問わずどんなスタイルにも溶け込みます。また腐りにくいため、キッチンツールに最適です。アカシア チョッピングボード ラウンド 30cm ¥4,180(税込)
ピザの上をスライドしてカットする際に重要なのは、しっかりと力を入れて押さえられること。グッと力を入れられる構造になっていて、「ピザが切れていない!」というミスもほとんどありません。シェフランド ピザカッター¥1,045(税込)

Photo:関めぐみ
Interview / text:村岡俊也

前田 博隆(まえだ ひろたか)さん

1974年生まれ。映像プロデューサー。映像制作会社「前田屋」代表。社訓は「楽しいほうを選ぶ」。主に仕事の打ち上げでピザを振る舞うほか、イベントなどでも出張ピザ店を開業している。
https://maedaya-honten.com/

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